成人してから発達障がいと診断される人たち
発達障がいと聞くと、子供のうちにつく診断と誤解される方も多いようです。発達障がいとは、そもそも生まれつき脳機能の偏りが原因で起こる得意・不得意の特性と、その方が過ごす環境や周囲の人とのコミュニケーションの困難さ、あるいは、社会に対しての生きづらさが特性としてある症状を言います。脳機能に関してはまた全て解明されているわけではありませんが、特性として脳機能が何らかの影響を及ぼしていると言われています。
特質的な症状がちらほらと見られるのは、自我が芽生えた頃の幼少期になります。そこで早期療育へ繋がることで、後々の成長の手助けになり、特性とうまく付き合っていけるような支援を行うのが療育なのです。
ですが、特性によっては幼少期には特別な発達の心配もなく、そのまま成人される方も少なくありません。それは、発達障がいと言えば、周囲が困るような言動をイメージしますが、決してそこだけではなく、大人しく周囲にとっては何も困るような言動もなく、普通に過ごしてきた方の中にも発達障がいの特性に苦しみ、生きづらさを抱えている方もいらっしゃるのです。そんな方は成人するまで見過ごされることもあるのです。
自分の性格の問題と思いこんだり、周囲がちょっと繊細な子として扱ってきたことで、本人の生きづらさに焦点が当たらないケースは沢山あります。
その理由として、教育を受けている間は大人や周囲の人たちが本人を見守り時には支えてきたことで、困り感がないケースも多いのです。中には知的には高く、学習面では群を抜いている子の場合は特に『何も問題ない優秀な子』として扱われがちなのです。例え生活面での苦手さがあったとしても、それを徹底して教えることよりも、今の日本では特に教育の中で落ちこぼれていないのであれば問題視はされることが少ないのです。ですが、いざ社会に出てみると、基本的な生活の中であれもこれも出来ないことに本人が気づき、自分は周囲とは何だか違うと違和感を感じたり、2次障がい的にうつ病などを患ってしまうケースも少なくありません。
また、周囲の親や身近な大人が本人が困らないように先回りして教育や育児をしてきたことで、自立する段階になると教えても教えてもなかなか習得できないことで発達障がいを疑うケースも増えてきているのです。
医療から見る発達障がいの診断と対処方法
発達障がいの診断を受けることは、特に成人してからではかなりハードルが高いと思います。実際私がご相談をお受けしてきた方の中には
『診断を受けることはしたくない』
と言われる方もいらっしゃいました。逆に診断を受けることで
『生きづらさの原因が分かったことで安心した』
という方もいらっしゃいました。診断を受けるのはあくまでご自身の判断になります。そして診断はあくまで目安と思い、自分がどのような特性を持ち合わせているかを知るひとつの判断材料と思った方がいいかもしれません。
【医療機関での診断】
問診で現在の症状や困っていることなどを聞きます。そして幼少期からの成育歴を聞いていきます。幼少期、特に学童期の情報は詳しく聞き取りが行われます。その他、家族や身近な人からの聞き取りを行うことも診断には有用であるようです。成育歴は診断を行う上で重要な材料になります。子供と違い大人の場合、診断にはかなり慎重に問診をするケースが多いようです。診断は問診を重視し、補助的に心理検査などを行う場合もあるようです。
ADHDやアスペルガーなどの診断名に焦点を当てて説明するよりもその特性に着目してもらうことで、特性とうまく付き合っていく術を伝える医療機関が多いようです。
※ここでは診断名とその特性は紹介しません。あくまで診断名が出た時にどのように対処するかの大まかな方法をご紹介させていただきます。なぜならば診断名があっても100人いれば100通りの特性があるため、同じ特性でも微妙に違うからです。
【治療法】
治療というよりはその特性に合わせて対処をしていくという方針が多いようです。治癒させることではなく、その特性とうまく付き合っていく、困り感を医療の方面からサポートすると言った感じです。落ち着きがない、物事に集中できないなどの場合、薬物を使用して対応することもあります。また、診断がつかなくても、困り感が強い場合は医療機関に定期的に通院し、薬物や心理などの対処をしてもらうことも可能です。他に多いのは、発達障がいからくる生きづらさによって二次障がいと言い、鬱や摂食障害などのメンタル的な病気にかかるケースが多いことで、そちらの治療をメインに行うこともあるのです。デイケアなどの医療機関のプログラムに参加しながらメンタルの方の治療をメインにする方もいらっしゃいます。また一般の就労が困難な場合は、福祉の制度で利用できる、就労支援事業所などで自分に合う働き方を見つけながら、その準備段階で通う方もいらっしゃいます。
【医療機関の探し方】
発達障がいの診断はどこの心療内科や精神科で行っているわけではありません。専門で行っている医療機関を探す必要があります。
こちらは全国の専門医が紹介されているサイトです。
ご参考までに
因みに北海道ではこちらでご相談をお受けしています。
自分を知ること・客観的に見ること
自分がどんな特性があるのかを知ることは特性と一緒に生活するうえではとても大切な事です。自分マニュアルを簡単でもいいので作成して持ち歩くことをお勧めします。
【自分マニュアルの作り方】
サイトでいくつか見本が紹介されています。それをそのまま使うのもいいかもしれませんが、より分かりやすい物を作るならば、一番大切なのは自分がどのような特性があって、普段どんなことで困っているかです。
日々の生活の中で、うまくいかなかったこと、こうしたら逆にうまくいったことなどを書き留めながら自分マニュアルとして整理していくことが大切なのです。
その整理を1人では難しい場合は自分を理解してくれているような支援者や第三者と一緒にまとめていくこともいいかもしれません。
- 私の得意な事、好きな事、やっていて時間を忘れるくらいに楽しいと思えること。
- 苦手な事、何度取り組んでも出来ないこと、そのことを考えただけで嫌な気持ちになること。
- ストレスがたまってくるとどんな気持ちになるか、その時に周りにどんな対応をしてもらいたいか。
- 周囲の人に配慮をしてもらいたいこと
- (ご自身が嫌でなければ) 診断名とその診断名の基本の特性
大まかに分けてこのような事を自分で書き留めるなり、常に念頭に置きながら生活していくことで、初めはなかなか自分のこともよく分からないな、と感じていた事でも少しずつ自分の特性を知ることが出来るようになっていきます。これは自己受容でもあるのです。
まとめ
大人になってから発達障がいが分かるケースな今や増加傾向にあります。その要因として
・幼少期には特別な発達の心配がないと思われるような大人しく周囲にとっては何も困るような言動もなく、普通に過ごしてきた方。
・教育を受けている間は大人や周囲の人たちが本人を見守り時には支えてきたことで、困り感がないケースも多い。
・知的には高く学習面では優秀な子の場合は特に『何も問題ない優秀な子』として扱われがち。
・生活面での苦手さがあったとしても、それを徹底して教えることよりも、今の日本では特に教育の中で落ちこぼれていないのであれば問題視はされることが少ない。
この他にも、昔は発達障がいという診断名はなく、自閉症や知的障害、身体障害などが障がいと括られていました。クラスに必ずいるような『ちょっと変わった子』として扱われた子供たちは、性格や家庭環境のせいとされる傾向があったというのも大人になってから診断が出ている要因の一つでもあります。特に今は40代以降の発達障がいの大人が増加傾向にあります。高度経済成長時代の第二次ベビーブーム世代が生きづらさを抱え、引きこもりになっているケースも多く、その中には発達障がいと診断された方も増えてきたと言います。
これらの殆どは医療が進歩して発達障がいという新しい特性が確立されたことで、今ようやく診断がついたという世代でもあるのです。
大人になるまで様々な苦労や生きづらさを経験し、今ようやく自分が誰なのか、どんな人物なのかを知ることが出来る時代が来たのかもしれません。
今回の記事は大人の発達障がいについて、相談機関や医療機関での診断の内容などを記載しましたが、これらはあくまで参考までに見ていただけると幸いです。しっかりとした診断や判断はあくまで医療や公的な機関で受けることをお勧めします。