高齢者の認知機能が落ちてくると、生活にも支障をきたすだけでなく本人の気力も落ちてくる
私の父は、母がなくなる1年くらい前から、じわじわと物忘れがひどくなってきました。その2年ほど前に、自営業をしていた父は50年経営していた会社をたたみ、時間がたっぷりある生活に変わってしまったのも物忘れがひどくなってきた大きな要因と考えられるかもしれません。そして、母の死があり、父としては、今まで生活の中心だった仕事と母の介護が無くなったことで膨大な時間と暇が出来たということになります。
元々あまり弱音を吐かず、いつも明るい父なので元気がないなどということはありませんが、見るからに認知機能が落ちてきたな、と思う場面が増えました。
あまり、指摘しすぎるとさすがの父もシュンとしてしまうので、笑いを入れながらさりげなく伝えるなどしています。
そんな父がある日、ぼそっと言った言葉が
何でこんなに忘れっぽくなったんだろう
あまりに物忘れがひどくて、ついついキツい言い方をして父の物忘れを指摘してしまった私は、反省しました。父だって気づいていないわけじゃない、逆に気づいているからこそ辛いんだろうな、と・・・
私たちは加齢とともに色々な身体機能の低下を避けることはできませんよね。私自身も少しずつ更年期に向かいつつある自分の体調が年々思わしくない日が多くなることに多少の不安を感じたりもします。
高齢者にとって、この生活の中で出来なくなっていくことが増えていくのは辛いことなのです。今まで自分が家族の生活を支えたり、中心となって家族に頼られる存在だったのが、いつしか、立場が逆転し家族に支えられ自分が出来ていたことが出来なくなる現実を突きつけられ、頑張ろうという気力すら失われていく・・・そんな毎日を過ごすことは辛い、と思われる方も少なくありません。
日々の介護の中で何かしらの刺激を与えることで認知機能の衰えを緩やかにできる
そんな認知機能を少しでも落とさないか、現状を維持できるように、父には刺激を与え、少しの役割や良い意味でのプレッシャーを与えるようにしています。また、元々仕事人間だった父には、役割をいくつか与えてみたりもしています。特に母が亡くなった1年間は、あちこちから香典やお花がひっきりなしに届き、そのお礼などに追われていました。本来ならば父にお願いすると時間がかかったり、間違えることはわかっていましたが、父にお願いしてみたのです。その後の確認や大切なことはこちらでやりつつ、常に父が主導を握るという形で確認していきました。
会社の経営者らしく父は生き生きとあちこちにお礼を送り、名簿を作成し、領収書の整理も行いました、が、金銭管理は私の方でさせてもらいました。
社長と経理という関係の小さな組織を見立てて社長である父にお伺いを立てるカタチを作ったのです。父はそこで少し、認知機能が良くなってきたように思いました。
認知機能の衰えがひどくなってくると、当然ながら家の中も汚くなっていきます。あれだけ片付けや整理整頓が得意だった父が見る見るうちに家の中が乱雑になり、何をどう片付けしていいのかもわからいらしく、実家に行くとテーブルの上や台所は乱雑になっていました。掃除機もいつかけたのか?ほこりがあちこちにフローリングの上を漂っていたのです。2週間に1度来ているヘルパーさんにも、家の中の掃除を手伝ってもらってはいましたが、いつもなら2週間後も割ときれいにしてあるのが、結構な散らかし具合で、父と一緒に掃除をしようと声をかけても、やる気がなく、いつもと違う様子だったと報告を受けていたのです。
でもその親割を任せてから、家の中も少しずつ整理されいつもの整理整頓が得意な父に戻っていました。
我が家ではそのようにちょっとしたプレッシャーをかけた役割を父に引き受けてもらうことで、認知機能低下の予防につながっているようです。
介護の仕事をしていた時は、私たち職員の仕事を利用者の方々と一緒に行うことをしていました。デイサービスで働いていた時は、タオルたたみや、元気な方にはちょっとした食事の準備や片付けもお願いしていました。
そうすることで、デイに来る張り合いが生まれ、自分がやらないと!という責任感で良い緊張感が生まれます。すると今まで認知機能が落ちていた方が、昔の自分を取り戻され生き生きと動いたり次は何をするかを提案すらしてくださるようになっていくのです。
また、様々なレクレーションも行っていました。大体の高齢者の施設では同じような取り組みはしていますが、その施設施設で面白い取り組みも行っているようですね。とある施設では、パチンコ台やマージャン卓を置いて、職員も一緒に楽しんだり、またある施設は夕方開所にし、居酒屋のようなお酒を提供できる場所にするなど過去に楽しんでいた趣味や習慣を体験してもらうことで刺激になり元気を取り戻すことを目的としているところも多いのです。
私の母は、元気な頃、少しの期間ですが大正琴を習っていました。定期的に町内会で発表会なるものを行っていたようですが、その前にパーキンソン病の病状が進行してしまい、母自身が人前に出ることを拒否し、大正琴の教室すらも辞めてしまったのです。でも、家では時々楽譜を見ながら弾いていて、弾き方を忘れないようにしていたようでした。
その後、デイサービスに通うようになった時、ケアマネとケアプラン作成時のモニタリングの時に、母に
趣味とかありますか?
と聞かれると
大正琴を弾くこと
と答え、その後デイのレクレーションの時間に毎回大正琴を弾かせてもらっていたのです。たまたま他にも大正琴を習っていた方がいらっしゃったこともあり、一緒にデイサービスで同じ趣味を楽しむ仲間がいるという楽しみが母にできたのは、とても良い意味で刺激になっていました。、元々人嫌いで、ほとんど家から出ない性格の母には友達という人は、私が知っている限りではいなかったので、母がデイサービスに通う事だけでなく趣味の大正琴を奏でる楽しみが増えたことにも驚きでした。
そのおかげか?母の病状の進行は緩やかになり、10年以上たっても急激な身体面の悪化はあまり見られないことに医師も驚いていました。
何らかの刺激や楽しみなどを生活の中に入れることで、介護される側にとっては、生きる張り合いのようなものが生まれ、毎日が充実しいていくことで、認知機能も衰えにくいという結果は医学的にも証明されているようです。
認知機能が衰えているのかどうかの判断基準のようなものはないの?
毎日一緒に暮らしていると、じわじわと低下していく認知機能がどのような程度まで衰えているのかがわからないという話も聞きますし、私も母の時には、衰えているようで実は検査をすると大丈夫だったり、今日できなかったことが数日後にはなぜかできるようになったりと、目安でもいいので、程度がわかるものを知りたいと思っていました。父に関しては、かかりつけ医で定期的に簡単な検査をしていますが、検査はあくまでその時の心身の状態などに左右されるので、一応今の状態を知っておくかな、程度にしようと思っています。母が亡くなった頃には、その検査に一喜一憂しながら、次の段階(脳神経外科でのしっかりとした認知症の検査)にいつ行こうかと思って気をもんでいましたが、今の父のできることに目を向けつつ周囲が気にかけることで、あまり神経質になりすぎないようにしようと思ったのです。
では、その評価なるもの参考となるものの検査種類はどんなものがあるのでしょうか?
認知機能を見ていく分類にはいくつかのものがありますが、そのうちの一部をご紹介します。
●記憶力・・・物事を覚えるだけでなく特に高齢者は日常の中での出来事や必要な物事を記憶しておくことが困難になっていきます。買い物に行く、食事をする、人や物の名前を覚えておく、などを見ていくと、おや?と思うことがあるかもしれません。
●言語能力・・・相手が話している言葉や書いている文章を理解する、自分の意思を言葉で伝えるなど、認知機能が落ちてくるとそれが難しくなっていきます。特に会話が成り立たなかったり、質問への答えがとんちんかんな答えになってくることも認知機能が落ちてきている要因にもなります。
●判断力・・・物事を決定することが判断力と思われがちですが、それ以外にも自分で状況を把握することや車の運転などもそれに当てはまります。判断力が低下すると、ミスが多くなったり、状況が理解できず徘徊につながったりすることもあるのです。
●計算力・・・時計を見たり、時間配分を考えたりなども計算力になります。計算力が低下してくると、金銭管理が難しくなり買い物も1人ではできなくなっていきます。
●遂行力・・・何かを成し遂げるために順序だてて自分の中で考え行動することをいいます。例えば洗濯をするために、洗濯機を回すまでの過程を順序だてて出来なくなると、この遂行力の低下が見られると考えられるのです。
このようなポイントを押さえながら介護者の方を見て、どんな機能が低下しているかを知り、それに対応した介護を行うことで認知機能の低下予防につながります。
父は記憶力はもちろんのこと、計算力が大分落ちてきました。自営業をしている時には、毎日電卓をはじいていたはずの父・・・会社経営全体の資産や利益を考えながら従業員の給料を出すなど、経営者としてなくてはならない計算力だったものが最初に低下してきたのです。それは、時としてしっかり管理できることもあれば、えっ!?というようなお金の管理具合の時もあり、ハラハラすることも多いのです。
記憶力の低下とともに計算力の低下は時として、父の毎日の生活を圧迫しかねないのでは?という不安にもつながっています。
これらの衰えは、進行を遅らせたり予防することは可能なのです。認知症と診断される前段階では日々の生活の中で色々な脳への刺激をすることで、少しずつ改善したり、一時低下していたのが落ち着いたりも可能です。
その中で認知症と診断されたり医師の判断で投薬などが必要であれば、それと併用しつつ低下を遅らせることはできます。
終わりに
認知機能の低下予防に今では色々な脳トレなるものが出ています。ネットで調べると沢山の脳トレグッズや、アプリ、無料ダウンロードして使えるプリントなど、その方の様子に応じたものが使いわけできるようになりました。
母もずっと塗り絵と、毎月のカレンダーを作成し続け、日付や月の確認とともに手先を動かすことで脳への刺激を与えるようなことをリハビリでしてもらっていました。
生活自体が全介助になると、母のようにレクレーションやリハビリの一環として認知機能の低下予防を行うことも可能なのです。
ある医師は、会話が一番の脳の刺激に良いと言われていました。普通の何気ない会話でも高齢者にとっては、誰かと話せる楽しみにもなり、口腔の運動にもなるとその医師は述べていました。
私の叔母は、90歳にもなりますが、弟である父よりもはるかに認知機能は高く、全く問題ない状態です。叔母は元々人と関わるのが大好きで、足腰が弱った今は外出が出来なくなっても、毎日誰かしらと電話で長話をしています。それが叔母の毎日の生活に張り合いと刺激をもたらしていると思うのです。
体は動かなくても口は若いわよ(笑)
いつも叔母はそう言って笑います。なので、食事もむせなどなく、よく食べ固いものでも平気です。逆に物忘れがひどい父に説教をするくらいです(笑)
認知機能の低下は誰しも加齢とともにやってきます。それは避けられない事実です。そのためには予防できることは沢山あるということ、生活への張り合いや楽しみ、刺激を得ることで、いつまでも脳も元気でいられるのですね。